前回の記事「高ストレス者への相談対応|面接指導を受けない場合の支援」では、
医師による面接指導を申し出なかった労働者への相談対応について解説しました。
ストレスチェックでは、労働者一人ひとりが自分のストレスの状態に気づき、
セルフケアにつなげることに加えて、結果を職場や部署などの集団ごとに分析し、
職場環境の改善に活かすことも大切です。これを「集団分析」といいます。
集団分析を行うことで、「仕事の負担が大きくなっていないか」
「上司や同僚からの支援が得られているか」など、個人の結果だけでは見えにくい
職場全体の傾向を把握できます。
一方、特に小規模事業場では、人数が少ないため、分析結果から個人が推測されないよう
十分な配慮が必要です。
この記事では、ストレスチェックの集団分析とはどのようなものか、
結果を見る際のポイントや、事業者が注意しておきたいことについて解説します。
この記事のポイント
・集団分析は、ストレスチェックの結果を職場や部署などの集団ごとに集計・分析するもの
・「仕事の量的負担」「仕事のコントロール」「上司・同僚の支援」などから職場の特徴を把握する
・結果は職場の良し悪しを決めるものではなく、職場環境を見直すための手がかりとして活用する
・少人数の職場では、個人が特定されないよう分析単位に注意する
・集団分析の結果は、経年変化も確認できるよう5年間保存することが望ましい
集団分析とは
集団分析とは、個人のストレスチェック結果を、事業場全体や部・課・グループなどの
一定の集団ごとに集計し、その集団のストレスの特徴や傾向を分析することです。
ストレスチェックの個人結果は、労働者本人が自分のストレスの状態を知り、
セルフケアなどに活かすためのものです。
これに対して集団分析は、個人ではなく「職場」に目を向けるためのものです。
たとえば、
・仕事の量的負担が大きい
・自分で仕事の進め方を決めにくい
・上司からの支援が少ない
・同僚からの支援が少ない
といった傾向を職場単位で把握し、働きやすい職場づくりにつなげていきます。
集団分析と、その結果に基づく職場環境の改善は、事業者の努力義務とされています。
ストレスチェックを実施した後は、個人への結果通知や高ストレス者への対応だけで終わらせず、
集団分析についても実施を検討しましょう。
どのような単位で分析する?
集団分析は、事業場全体だけでなく、部・課・グループなど、
実際の職場環境を共有している単位で行います。
どの単位で分析するかは、事業場の組織や業務の実態に応じて決めます。
たとえば、同じ事業場の中でも、営業部門と製造部門では、
仕事内容や働き方、職場環境が大きく異なることがあります。
このような場合、事業場全体の結果だけでは、それぞれの職場の特徴が見えにくくなる
ことがあります。
一方、細かく分けすぎると人数が少なくなり、個人が特定されるおそれがあります。
「職場の特徴が把握できること」と「個人が特定されないこと」の両方を考えて、
分析単位を決めることが大切です。
「仕事のストレス判定図」で何がわかる?
「職業性ストレス簡易調査票(57項目)」または簡略版(23項目)を使用している場合には、
「仕事のストレス判定図」を用いて集団分析を行う方法があります。
仕事のストレス判定図では、主に次の4つの項目から職場の特徴をみていきます。
・仕事の量的負担
・仕事のコントロール
・上司の支援
・同僚の支援
これらをもとに、
「量―コントロール判定図」
仕事の量的負担と、仕事を自分で調整できる程度とのバランスをみる
「職場の支援判定図」
上司や同僚からの支援の状況をみる
という2つの判定図から、職場のストレスの特徴を把握します。
また、標準集団の平均を100として、「健康リスク」が示されます。
100を上回っている場合には、
標準集団と比較して健康問題が生じるリスクが高いことを示します。
たとえば、健康リスクが120の場合には、
標準集団と比べて健康問題が起こる可能性が20%高いと推定されます。
ただし、この数値だけで職場の状況を判断するものではありません。
集団分析の結果は「職場を評価する点数」ではない
集団分析の結果を見ると、「健康リスクが高い」「全国平均より悪い」といった数値に
目が向きやすくなります。
しかし、集団分析は、職場や管理監督者を評価するために行うものではありません。
結果から職場の特徴を把握し、より働きやすい職場にするための手がかりを見つけることが
目的です。
たとえば、仕事の量的負担が高くても、繁忙期など一時的な影響を受けていることがあります。
また、ストレスチェックだけでは把握できない職場の状況もあります。
そのため、集団分析の結果だけを見るのではなく、
・時間外労働などの勤務状況
・業務量や業務内容の変化
・人員体制
・職場巡視で把握した状況
・管理監督者や労働者からの意見
などもあわせて確認し、職場の状況を総合的にみていくことが大切です。
小規模事業場で注意したい集団分析を行う人数
小規模事業場で特に注意したいのが、集団分析を行う人数です。
集団分析は個人のストレスチェック結果をもとに行うため、人数が少ないと、
分析結果から個人が推測される可能性があります。
そのため、集計・分析の単位が10人を下回る場合には、原則として、
事業者は集団分析結果の提供を受けることができません。
ここでいう「10人」は、その部署に在籍している労働者の人数ではなく、
実際にストレスチェックを受検し、有効なデータが得られた人数で判断します。
たとえば、ある部署に12人が在籍していても、実際の受検者が9人であれば、
「10人以上」にはなりません。
このような場合には、隣接する部署とまとめる、より上位の組織単位で分析するなど、
個人が特定されない分析単位を検討します。
なお、個人が特定されるおそれのない方法で集計・分析する場合には、10人未満でも結果を
提供できる場合がありますが、極端に少人数の集団では個人の推測につながる可能性があります。
特に小規模事業場では、「分析できるか」だけでなく、
「労働者が安心して結果を提供できる方法になっているか」という視点を持つことが重要です。
集団分析ではプライバシーに配慮する
集団分析の結果は、個人が特定されない形で作成されていれば、
個々の労働者の同意を得ることなく、実施者から事業者へ提供することができます。
そのためにも、個人が識別されない方法で分析することが前提となります。
2026年6月には労働安全衛生規則が改正され、2027年4月1日から、集団分析について
「特定の個人を識別することができない方法」で実施することが明確に規定されます。
これは、これまでの取り扱いを大きく変更するものではなく、従来から求められていた
プライバシー保護の考え方を明文化したものです。
また、集団分析の結果は、その部署の管理監督者に対する評価につながるような使い方を
するものでもありません。
誰が結果を見るのか、どのような目的で利用するのか、
どの範囲まで共有するのかについても、あらかじめ決めておくことが大切です。
集団分析の結果は経年変化も確認する
集団分析は、1回の結果だけを見るのではなく、毎年の変化を確認することも大切です。
たとえば、
「前年より仕事の量的負担が高くなっている」
「上司の支援が改善している」
「職場環境改善に取り組んだ後、健康リスクが低下している」
など、継続して確認することで職場の変化が見えやすくなります。
このため、集団分析結果は、事業者が5年間保存することが望ましいとされています。
毎年同じ時期に、できるだけ同じ分析単位で確認していくと、
職場環境の変化や取組の効果を把握しやすくなります。
集団分析の結果を職場づくりに活かす
集団分析を実施しても、結果を確認しただけでは職場環境は変わりません。
大切なのは、結果から、
「この職場では何が負担になっているのか」
「現在の働き方や職場の状況と結果は一致しているか」
「改善できることはないか」
と考えていくことです。
特に小規模事業場では、分析できる人数に限りがあることもあります。
無理に細かな部署ごとの分析を行うのではなく、個人のプライバシーを守りながら、
事業場の規模や組織の実態に合った方法で結果を活用していきましょう。
まとめ
集団分析は、ストレスチェックの結果を職場や部署などの集団ごとに分析し、
仕事の負担や職場の支援などの傾向を把握するためのものです。
結果を見る際には、数値だけで職場の状況を判断するのではなく、
勤務状況や業務内容、人員体制などもあわせて確認することが大切です。
また、小規模事業場では、分析する人数が少ないことで個人が特定されないよう、
分析単位や結果の取り扱いにも十分配慮する必要があります。
集団分析は、結果を確認することが目的ではなく、職場の状況を振り返り、
より働きやすい職場づくりにつなげていくためのものです。
次の記事「ストレスチェックを職場環境改善に活かすには?」では、
集団分析の結果をどのように職場環境の改善につなげていくのか、
具体的な進め方について解説します。
参考資料
厚生労働省 ストレスチェック制度・メンタルヘルス対策
-「労働安全衛生法に基づくストレスチェック制度実施マニュアル」
-「小規模事業場ストレスチェック制度実施マニュアル」
厚生労働省 関係法令等
-「ストレスチェック指針」
-「労働安全衛生規則の一部を改正する省令の施行について」

