2026年4月1日から、改正労働安全衛生法により、高年齢者の特性に配慮した労働災害防止対策が
事業者の努力義務となりました。
働く人の高齢化が進む中、高年齢労働者は他の年齢層と比べて労働災害の発生率が高く、
災害が発生した場合の休業期間も長くなる傾向があります。
こうした状況を踏まえ、厚生労働省は従来の「エイジフレンドリーガイドライン」に替わる
「高年齢者の労働災害防止のための指針」(エイジフレンドリー指針)を策定しました。
本記事では、新しい指針の概要と、中小企業が取り組みたい職場環境の改善について解説します。
この記事のポイント
- 2026年4月1日から、高年齢者の労働災害防止対策が事業者の努力義務に
- 新しい指針では、安全衛生管理体制の整備や職場環境の改善など、5つの取り組みを提示
- リスクアセスメントにより危険要因を把握し、対策の優先順位を検討することが重要
- 高年齢者本人の注意や努力だけに頼らず、設備・作業環境の改善を優先する
高年齢者の労働災害防止対策が努力義務に
2026年4月1日施行の改正労働安全衛生法第62条の2により、事業者は、高年齢者の特性に配慮した
作業環境の改善、作業の管理その他の必要な措置を講ずるよう努めることとされました。
これに伴い、厚生労働省は「高年齢者の労働災害防止のための指針」を公表しています。
今回の改正により、事業者には、高年齢者の特性に配慮した労働災害防止対策に努めることが
法律上求められるようになりました。
事業場の実情や労働災害のリスクを踏まえ、指針に示された内容に沿って、
必要な対策を計画的に進めていくことが重要です。
なぜ高年齢者の労働災害防止が重要なのか
厚生労働省によると、労働災害による休業4日以上の死傷者のうち、
60歳以上の労働者が占める割合は増加傾向にあります。
また、高年齢労働者は他の年齢層と比べて労働災害の発生率が高く、
休業期間も長くなる傾向があります。
加齢に伴う筋力やバランス能力、視力などの変化は、
転倒や墜落・転落などの労働災害につながる可能性があります。
一方、身体機能の変化には個人差があり、年齢だけで一律に判断することは適切ではありません。
高年齢者の特性を理解し、個々の状況に配慮しながら、
安全に働ける職場環境を整えることが大切です。
新しい指針で示された5つの取り組み
新しい指針では、事業者が講ずべき措置として、次の5項目が示されています。
| 項目 | 主な内容 |
|---|---|
| ① 安全衛生管理体制の確立等 | 経営トップによる方針表明、体制整備、リスクアセスメント |
| ② 職場環境の改善 | 設備・作業環境の改善、作業管理 |
| ③ 高年齢者の健康や体力の状況の把握 | 健康診断、体力チェックなど |
| ④ 高年齢者の健康や体力の状況に応じた対応 | 就業上の措置、適切な業務とのマッチング、健康づくり |
| ⑤ 安全衛生教育 | 高年齢者や管理監督者への教育 |
これらの取り組みは、職場の危険要因を把握し、必要な改善を進めるとともに、
労働者の健康や体力の状況に応じた対応につなげるものです。
今回は、このうち「安全衛生管理体制の確立等」と「職場環境の改善」を中心に紹介します。
安全衛生管理体制の整備とリスクアセスメント
経営トップの方針表明と体制整備
高年齢者の労働災害防止を進めるためには、経営トップが取り組みの方針を示し、
担当者や役割を明確にすることが重要です。
また、安全衛生委員会等で高年齢者の労働災害防止について調査審議するなど、
労使で話し合う機会を設けます。
小規模な事業場でも、既存の安全衛生活動や職場ミーティングなどを活用し、
危険要因や改善策について話し合うことが考えられます。
リスクアセスメントにより対策の優先順位を検討する
新しい指針では、高年齢者の身体機能の変化などによる労働災害の発生リスクを把握し、
対策の優先順位を検討することが示されています。
例えば、次のような点を確認します。
- 段差や滑りやすい床など、転倒につながる場所はないか
- 階段や高所作業など、墜落・転落の危険はないか
- 重量物の取り扱いなど、身体的負担の大きい作業はないか
- 暑熱環境など、身体への負担が大きい作業環境はないか
過去の労働災害やヒヤリハット事例、職場巡視の結果なども参考になります。
把握したリスクについて、災害の発生可能性や重篤度などを踏まえて評価し、
優先順位の高いものから対策を進めます。
職場環境の改善は設備・装置の導入を優先
高年齢者の労働災害防止では、本人の注意や努力だけに頼るのではなく、
まず職場の危険要因を取り除くことが重要です。
新しい指針では、リスクアセスメントの結果に基づき、身体機能の低下を補う設備・装置の導入を
最優先に検討することが示されています。
例えば、次のような対策が考えられます。
| 職場の危険要因 | 改善例 |
|---|---|
| 階段や段差による転倒・転落 | 手すりの設置、段差の解消、スロープの設置 |
| 足腰に負担のかかる作業 | リフトや補助器具の導入 |
| 暑熱環境での作業 | 身体を冷却する機能のある装備の活用 |
| 滑りやすい床や暗い通路 | 床面の改善、照明の確保 |
これらは指針やリーフレットに示された考え方を踏まえた対策例です。
実際の改善方法は、作業内容や設備、労働災害のリスクに応じて検討する必要があります。
作業方法や作業負担の見直しも重要
設備・装置の導入を検討したうえで、高年齢者の特性に配慮した作業管理も進めます。
例えば、複数の作業を同時に進めることを避ける、作業負担を調整する、
暑熱環境での水分補給を促すなどの対応が考えられます。
ただし、作業方法の変更や注意喚起だけで対応するのではなく、
まず設備や作業環境によってリスクを低減できないか検討することが大切です。
中小企業では何から取り組めばよい?
中小企業では、安全衛生の専任担当者がいない場合や、
設備改善に十分な予算を確保することが難しい場合もあります。
そのような場合でも、まずは現在の安全衛生活動を活かし、
次のような取り組みから始めることが考えられます。
職場の危険要因を確認する
職場巡視やヒヤリハット事例などを通じて、
転倒しやすい場所や身体的負担の大きい作業を把握します。
改善の優先順位を決める
労働災害のリスクを評価し、優先順位の高いものから設備や作業環境の改善を検討します。
改善状況を確認する
対策を実施した後も、危険要因が十分に低減されたかを確認し、必要に応じて見直します。
すべての対策を一度に実施することが難しい場合も、必要な改善を整理し、
計画的に取り組みを進めることが重要です。
なお、厚生労働省では、中小企業向けの安全衛生支援事業やエイジフレンドリー補助金なども
案内しています。制度の内容や利用条件は変更される場合があるため、利用を検討する際は
最新の情報をご確認ください。
まとめ
2026年4月から、高年齢者の特性に配慮した労働災害防止対策が事業者の努力義務となりました。
新しい指針では、経営トップによる方針表明や安全衛生管理体制の整備、
リスクアセスメントに基づく職場環境の改善などが示されています。
高年齢者の労働災害防止では、本人の注意や努力だけに頼らず、
設備や作業環境の改善によって危険要因を低減することが重要です。
まずは自社の職場環境を確認し、優先順位をつけて必要な対策を進めていきましょう。
次の記事「高年齢者の労働災害防止対策|健康・体力の把握と安全に働ける職場づくり」では、
高年齢者の健康や体力の状況把握と、個々の状況に応じた就業上の対応や安全衛生教育に
ついて解説します。
参考資料
厚生労働省 「高年齢労働者の安全衛生対策について」
「高年齢者の労働災害防止のための指針」のほか、関係通達やリーフレット、
職場改善事例、支援事業などが掲載されています。

