THP指針の改正を踏まえた健康づくり|中小企業でできる具体的な取り組み

職場で従業員が健康づくりについて話し合い、ストレッチに取り組む様子を描いたイラスト

2026年10月19日、「事業場における労働者の健康保持増進のための指針(THP指針)」
が改正されました。 今回の改正では、従来の疾病の発症予防(一次予防)に加え、
疾病の早期発見・早期治療(二次予防)や、医療保険者等との連携、労働者自身による
健康情報の活用などが重視されています。

THP指針の改正内容や法的な位置づけについては、前回の記事
「THP指針が改正|中小企業が知っておきたい健康保持増進対策のポイント」
で詳しく解説しています。

本記事では、改正THP指針を踏まえ、中小企業でも取り組みやすい健康づくりの
具体例を紹介します。

目次

今回の記事のポイント

  • 健康診断後の対応を充実させ、疾病の早期発見・早期治療につなげる
  • 医療保険者等と連携し、がん検診等の受診勧奨や受診しやすい環境づくりを進める
  • 健康教育やPHRの活用を通じて、労働者自身の健康管理を支援する
  • 外部の産業保健資源を活用し、事業場の実情に応じた健康づくりを進める
  • 健康づくりを一時的な活動で終わらせず、計画的・継続的に取り組む

健康診断後の対応を充実させる

中小企業が健康づくりを進めるうえで、まず確認したいのが、現在実施している健康診断と
その後の対応です。

労働安全衛生法に基づく定期健康診断は、事業者に実施が義務づけられています。
また、異常の所見がある労働者については、医師等の意見を聴き、
必要に応じて就業上の措置を講じることが義務づけられています。

こうした法令に基づく措置を適切に実施することに加え、
労働者自身の健康管理につながる支援を充実させることも大切です。
例えば、次のような取り組みが考えられます。

  • 健康診断で異常が認められた労働者に、必要な医療機関の受診を勧める
  • 健康診断結果に応じて、保健指導や健康相談の機会を設ける
  • 血圧、血糖、脂質などの検査結果について、経年的な変化に目を向けるよう促す
  • 生活習慣の改善に役立つ情報を提供する
  • 医療機関で治療中の労働者が、必要な治療を継続しながら働けるよう支援する

健康診断の結果を通知するだけで終わらせず、法令に基づく事後措置を適切に実施する
とともに、労働者が自身の健康状態を理解し、必要な受診や生活習慣の改善につなげられる
よう支援することが重要です。

がん検診等の受診につながる環境を整える

今回の指針の改正では、がん、女性特有の健康課題、歯科疾患、骨粗しょう症、眼科疾患
などに対する二次予防の取り組みが明確に位置づけられました。

こうした健康課題について、労働者が適切な検診や医療機関の受診につながるよう支援する
ことが重要です。

検診に関する情報を提供する

事業者が新たにすべての検診を実施するのではなく、医療保険者等が提供している既存の
制度を活用することも有効です。
例えば、次のような取り組みが考えられます。

  • 加入している健康保険組合や協会けんぽ等のがん検診制度を確認し、労働者に案内する
  • 利用できる検診の種類、対象者、受診方法、費用などを周知する
  • 居住地の市区町村が実施するがん検診についても、利用できる場合があることを紹介する
  • 検診の結果、要精密検査となった場合には、必ず精密検査を受けることの重要性を伝える

特に、検診を受けるだけで終わらせず、精密検査が必要とされた場合には、
確実に受診につなげることが重要です。

なお、労働安全衛生法に基づく定期健康診断と、がん検診等では、事業者による結果の
取り扱いが異なります。法定の定期健康診断では、事業者に健康診断結果の記録や、
異常の所見がある労働者について医師等の意見を聴くことなどが義務づけられています。

一方、がん検診等の結果については、事業者が一律に取得・管理することを求められている
ものではありません。事業者が結果を取得する場合には、本人の同意の取得など、
個人情報保護に関する法令等に沿った適切な取り扱いが必要です。

検診を受けやすい環境を整える

検診の必要性を理解していても、仕事の都合などで受診を後回しにしてしまう労働者もいます。
そのため、受診しやすい環境づくりも重要です。
例えば、次のような取り組みが考えられます。

  • 検診のために休暇を取得しやすい職場環境を整える
  • 検診や精密検査の受診に必要な勤務調整を行う
  • 医療保険者等が実施する検診の利用を促す
  • 事業場の状況に応じて、検診費用の補助や特別休暇の導入を検討する

費用補助や特別休暇の導入が難しい場合でも、検診情報の提供や休暇取得への配慮など、
実施可能な方法から取り組むことができます。

がん検診等は、労働安全衛生法に基づく定期健康診断の法定項目には含まれていませんが、
今回の指針の改正では、疾病の早期発見・早期治療につながる取り組みが重視されています。

事業者には、医療保険者等と連携しながら、検診に関する情報提供や受診しやすい
環境づくりなど、事業場の実情に応じた取り組みを進めることが望まれます。

健康教育を通じて労働者の健康管理を支援する

健康づくりでは、労働者自身が健康に関心を持ち、必要な行動につなげられるよう支援する
ことも重要です。今回の改正では、がん等の健康課題について、正しい知識の普及や健康教育の
重要性も示されています。

中小企業でも、日常の業務の中で健康情報を提供することは可能です。
例えば、次のような取り組みが考えられます。

  • 朝礼や職場ミーティングで健康に関する情報を紹介する
  • 社内掲示板やメールで健康情報を定期的に発信する
  • がん検診や生活習慣病予防に関する資料を配布する
  • 女性特有の健康課題や更年期の健康について理解を深める機会を設ける
  • 運動、食生活、睡眠などをテーマにした健康教育を実施する

健康教育は、必ずしも長時間の研修である必要はありません。例えば、月に1回、
5~10分程度の健康情報を紹介することも、継続的な健康づくりの一つの方法です。

大切なのは、労働者の年齢や仕事内容、職場の健康課題などを踏まえ、
関心を持ちやすいテーマを選ぶことです。

また、健康づくりへの参加を強制するのではなく、労働者が自分の健康について考え
主体的に行動できるよう支援することが望まれます。

PHRを活用した継続的な健康管理を促す

今回の指針の改正では、労働者が自身の健康保持増進につなげるため、デジタルツール等を
活用し、生涯にわたる保健医療情報(PHR)の把握に努めるよう促すことも示されました。

PHRとは?

PHR(Personal Health Record)とは、生涯にわたる個人の健康診断結果や診療情報、
服薬情報などの保健医療情報のことです。
例えば、次のような情報が含まれます。

  • 健康診断や特定健康診査の結果
  • 医療機関での検査結果や診療情報
  • 処方された薬の情報
  • 予防接種歴
  • 日々の体重、血圧、歩数などの健康データ

こうした情報を継続的に確認することで、自身の健康状態の変化に気づき、
生活習慣の改善や医療機関への相談などにつなげることが期待できます。

マイナポータルの活用

PHRを活用する方法の一つとして、国が提供する「マイナポータル」があります。
マイナポータルでは、特定健康診査の結果や薬剤情報など、登録されている保健医療情報を
確認できます。

これらの情報は、本人が必要に応じて確認できるため、転職や退職などによって勤務先が
変わった場合にも、継続的な健康管理に役立ちます。

ただし、すべての健康診断結果や医療情報が閲覧できるわけではなく、
登録状況や対象期間によって確認できる情報は異なります。

また、日々の歩数、睡眠時間、家庭で測定した血圧などについては、
個人が利用する健康管理アプリ等を活用する方法もあります。

事業場でできる支援

指針では、労働者が自身の健康保持増進につなげられるよう、
事業者がデジタルツール等を活用したPHRの把握を促すことも示されています。
例えば、次のような取り組みが考えられます。

  • マイナポータルなど、健康情報を確認できるサービスを紹介する
  • 健康診断結果を経年的に確認することの大切さを伝える
  • 日々の血圧や体重などを記録する方法を紹介する
  • 健康情報を活用した生活習慣の改善について情報提供する

PHRは、労働者自身が健康情報を把握し、健康管理に活用することを基本としています。
事業者がPHRの情報を一律に収集・管理することを求めるものではありません。

健康情報の取り扱いに当たっては、本人の意思やプライバシーを尊重し、
必要な範囲を超えて利用しないよう十分な配慮が必要です。

医療保険者や外部の専門機関を活用する

中小企業では、産業保健スタッフが常駐していない場合や、
健康づくりに十分な時間・人員を確保することが難しい場合もあります。
そのような場合には、医療保険者や地域の専門機関など、事業場外の資源を活用することが有効です。

医療保険者との連携

加入している健康保険組合や協会けんぽ等では、健康づくりに関するさまざまな
保健事業を実施しています。
例えば、次のような支援が考えられます。

  • 特定健康診査・特定保健指導
  • がん検診等の受診機会の提供や費用補助
  • 健康づくりに関する情報提供
  • 生活習慣病予防のための保健指導

利用できるサービスは、加入している医療保険者によって異なります。
まずは、自社の労働者が利用できる制度を確認することが大切です。事業者と医療保険者が
連携して健康づくりを進める「コラボヘルス」も、効果的な方法の一つです。

地域の産業保健資源の活用

産業保健に関する相談や支援には、地域の専門機関を活用する方法もあります。
例えば、次のような外部資源があります。

  • 産業保健総合支援センター:
    事業者や産業保健スタッフ等を対象とした専門的な相談対応や研修
  • 地域産業保健センター:
    主に労働者数50人未満の小規模事業場を対象とした健康相談や保健指導など
  • 産業医・保健師等の産業保健専門職:
    事業場の健康課題に応じた健康相談、保健指導、健康教育など

産業保健総合支援センターでは、事業者や産業保健スタッフ等を対象とした
専門的な相談対応や研修などを実施しています。

また、地域産業保健センターでは、主に労働者数50人未満の小規模事業場を対象として、
一定の要件のもと、健康相談や産業保健サービスを無料で提供しています。
こうした外部資源を活用することで、社内だけでは対応が難しい健康課題にも
取り組みやすくなります。

健康づくりを計画的・継続的に進める

健康づくりは、単発の健康教育やイベントだけで終わらせず、継続的に進めていくことが重要です。
指針では、健康保持増進措置を適切かつ有効に実施するため、事業場において具体的な実施方法を
確立することの必要性が示されています。

中小企業では、次のような流れで進めることが考えられます。

職場の健康課題を把握する

まずは、現在の健康管理や健康づくりの状況を確認します。
例えば、健康診断の有所見状況、健康相談の内容、労働者の年齢構成、勤務形態などから、
職場の健康課題を整理します。

健康診断結果等を集計・分析する場合には、個人が特定されないよう配慮し、
健康情報を適切に取り扱うことが必要です。

優先する取り組みを決める

把握した健康課題を踏まえ、事業場として優先的に取り組む内容を決めます。
例えば、次のような取り組みが考えられます。

  • 健康診断後の医療機関受診の促進
  • がん検診等に関する情報提供
  • 生活習慣病予防のための健康教育
  • 労働者が健康相談を利用しやすい環境づくり

最初から多くの取り組みを実施するのではなく、優先順位をつけることが大切です。

実施方法を具体化する

取り組む内容が決まったら、誰が、いつ、どのように実施するかを明確にします。
例えば、「毎月1回、社内メールで健康情報を発信する」
「健康診断後に受診勧奨の実施状況を確認する」など、実行可能な方法を設定します。

必要に応じて、衛生委員会等で検討したり、産業医や保健師等の専門職に相談したり
することも有効です。

実施状況を振り返り、改善する

取り組みを実施した後は、実施状況や課題を確認します。
例えば、健康教育の実施回数、検診情報の周知状況、健康相談の利用状況などを振り返ります。

その結果を踏まえて、次の取り組みに反映させることで、健康づくりを継続的に改善していく
ことができます。

健康づくりは職場づくりにもつながる

今回の指針の改正では、労働者の健康保持増進を経営的な視点から捉え、
戦略的に取り組むことの重要性も示されています。

労働者の健康を支えることは、疾病の予防や重症化防止だけでなく、
安心して働き続けられる職場環境づくりにもつながります。

また、健康づくりへの取り組みは、労働者の健康状態や働きやすさを通じて、
労働生産性の向上にも寄与することが期待されます。

中小企業においても、健康づくりを福利厚生の一つとしてだけではなく、
人材の確保・定着や働きやすい職場づくりに関わる取り組みとして捉えることが大切です。

まとめ

今回のTHP指針の改正では、従来の一次予防に加え、疾病の早期発見・早期治療につながる
二次予防や、医療保険者等との連携、労働者自身による健康情報の活用などが重視されています。

中小企業では、十分な人員や予算を確保することが難しい場合もありますが、
既存の健康診断や医療保険者の制度、地域の産業保健資源などを活用することで、
健康づくりを進めることができます。

大切なのは、事業場の健康課題を把握し、実施可能な取り組みから着実に進めることです。
労働者一人ひとりの健康を支える取り組みを、働きやすい職場づくりにつなげていきましょう。

参考資料
厚生労働省「事業場における労働者の健康保持増進のための指針」に関する公示
(令和8年10月19日改正)

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この記事を書いた人

企業の健康管理室等で30年間、産業保健業務に従事。
健康管理、メンタルヘルス対策、安全衛生活動など幅広い業務に携わる。製造事業場では、特殊健康診断や職場巡視などの労働衛生業務も経験。
2026年、岡本労働衛生コンサルタント事務所を開業。
労働衛生コンサルタント|保健師|キャリアコンサルタント

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