高年齢者の労働災害を防止するためには、設備や作業環境の改善に加え、
労働者一人ひとりの健康や体力の状況に応じた対応も重要です。
2026年4月から適用された「高年齢者の労働災害防止のための指針」(エイジフレンドリー指針)
では、健康診断や体力チェックによる状況把握、必要な就業上の措置、
健康づくり、安全衛生教育などが示されています。
前回の記事では、「高年齢者の労働災害防止対策が努力義務に|新指針と職場環境改善のポイント」
について紹介しました。
今回は、高年齢者の健康や体力の状況把握と、個々の状況に応じた対応について解説します。
この記事のポイント
- 高年齢者の労働災害防止には、健康状態だけでなく、体力や身体機能の状況把握も重要
- 指針では、主に高年齢者を対象とした継続的な体力チェックを示している
- 健康や体力の状況には個人差があり、年齢だけで一律に判断しないことが大切
- 状況に応じた就業上の措置や健康づくり、安全衛生教育を進める
- 健康診断結果や体力チェックの情報は、適切に取り扱う必要がある
高年齢者の健康や体力の状況を把握する
加齢に伴い、筋力やバランス能力、全身持久力などの身体機能は変化します。
こうした変化は、転倒などの労働災害の発生リスクに影響する可能性があります。
ただし、身体機能の変化には個人差があるため、年齢だけで判断するのではなく、
個々の健康や体力の状況を把握することが重要です。
健康診断の実施と事後措置
まず、労働安全衛生法に基づく健康診断を確実に実施することが基本となります。
健康診断の結果、異常の所見があると診断された労働者については、
法令に基づき医師等の意見を聴き、必要がある場合には就業上の措置を講じます。
例えば、健康状態や業務内容に応じて、作業負担の軽減や作業内容の変更などを検討する
ことが考えられます。
健康診断は、受診するだけでなく、その結果を必要な健康管理や就業上の対応に
つなげることが大切です。
体力チェックによる身体機能の把握
新しい指針では、体力の状況を客観的に把握し、必要な対策につなげるため、
主に高年齢者を対象とした継続的な体力チェックが示されています。
体力チェックでは、歩行能力等の筋力、バランス能力、敏捷性など、
労働災害に直接関係する身体機能を確認します。また、事業場の実情に応じて、
全身持久力や感覚機能、認知機能などを確認することも考えられます。
厚生労働省では、「転倒等リスク評価セルフチェック票」など、体力の状況を把握する
ための資料を紹介しています。
なお、体力チェックは法令で定められた健康診断とは異なり、すべての事業場に
一律に実施が義務づけられているものではありませんが、指針では、
体力の状況を把握し、必要な対策につなげるため、継続的な実施が示されています。
実施する際は、本人の体調や身体的負担に配慮し、無理のない方法を選ぶことが重要です。
また、身体機能の低下は20~30代から始まる場合もあるため、指針では、
体力チェックを青年・壮年期から開始することが望ましいとされています。
健康や体力の状況に応じた就業上の対応
健康診断や体力チェックなどで把握した情報は、必要な就業上の措置や健康づくりに
つなげることが重要です。
個々の状況に応じた作業管理
高年齢者の健康や体力の状況には個人差があります。
そのため、年齢だけを理由に一律に業務を制限するのではなく、本人の健康状態や体力、
作業内容などを踏まえた対応が必要です。
例えば、身体的負担の大きい作業について、作業方法や作業時間の見直しを検討することが
考えられます。
また、業務内容を決める際には、安全と健康の観点から本人に適した業務とのマッチングに努め、
継続して働けるよう配慮することも指針に示されています。
こうした対応は、労働者本人と十分に話し合いながら進めることが大切です。
治療と就業の両立支援
高年齢者の中には、病気の治療を受けながら働いている人もいます。
新しい指針では、高年齢者の治療と就業の両立について、「治療と就業の両立支援指針」に基づく
取り組みに努めることが示されています。
治療と就業の両立支援では、労働者本人の申し出を起点に、治療状況や業務内容などを踏まえ、
必要な支援を検討します。
詳しくは、「治療と就業の両立支援が努力義務に|中小企業が知っておきたい取り組みのポイント」
で解説しています。
健康情報の適切な取り扱い
健康診断結果や体力チェックの情報は、労働者の健康に関する大切な個人情報です。
これらの情報を取り扱う際には、利用目的や取り扱う人の範囲を明確にし、
プライバシーに十分配慮する必要があります。
また、健康や体力の状況を把握する目的は、労働者を一律に評価したり、
業務から排除したりすることではありません。
安全に働くために必要な配慮や職場環境の改善につなげることが重要です。
身体機能の維持・向上に向けた健康づくり
新しい指針では、高年齢者の身体機能などの維持・向上に向けた健康保持増進の取り組みも
望ましいとされています。
例えば、次のような取り組みが考えられます。
- 転倒予防や筋力維持を目的とした運動
- 日常生活での身体活動を増やす働きかけ
- 健康相談や健康教育の実施
- 職場で取り組める簡単な体操の紹介
健康づくりは、労働者本人の健康保持増進だけでなく、労働災害防止の観点からも重要です。
ただし、運動や体操の実施にあたっては、本人の健康状態や体力に応じて無理のない内容と
する必要があります。
また、健康づくりだけで職場の危険要因を解消できるわけではありません。
設備や作業環境の改善とあわせて取り組むことが大切です。
高年齢者と管理監督者への安全衛生教育
高年齢者の労働災害防止には、労働者本人と管理監督者の双方が、
加齢に伴う身体機能の変化や作業上のリスクについて理解することが重要です。
高年齢者への教育
高年齢者に対しては、法令に基づく安全衛生教育を確実に実施するとともに、
作業内容や危険要因について理解しやすい説明を行います。特に、経験のない業種や業務に
従事する場合には、十分な時間をかけて丁寧に教育することが大切です。
管理監督者への教育
管理監督者には、高年齢者の身体機能の変化や労働災害のリスクについて理解を促します。
また、実際の作業状況を確認し、作業に無理がないかを把握することも重要です。
日頃から声をかけ、労働者が身体的な負担や作業上の不安について
相談しやすい職場づくりを進めましょう。
中小企業で取り組みを進めるために
中小企業では、専任の産業保健スタッフがいない場合もあります。
そのような場合でも、既存の健康管理や安全衛生活動を活かしながら、
次のような取り組みを進めることが考えられます。
健康診断後の対応を確認する
健康診断結果に基づく医師等の意見聴取や、必要な就業上の措置が適切に
実施されているか確認します。
体力チェックの活用を検討する
職場の実情に応じて、体力チェックの実施方法や結果の活用方法を検討します。
健康づくりと安全衛生活動をつなげる
転倒予防や身体機能の維持・向上に向けた健康教育などを、安全衛生活動の中に取り入れます。
管理監督者の理解を深める
高年齢者の特性や作業上のリスクについて情報共有し、日頃の作業管理に活かします。
必要に応じて、産業医や保健師、労働衛生コンサルタントなどの専門家に相談することも有効です。
まとめ
高年齢者の労働災害防止には、職場環境の改善に加え、
労働者一人ひとりの健康や体力の状況に応じた対応が重要です。
新しい指針では、健康診断や体力チェックによる状況把握、必要な就業上の措置、
健康づくり、安全衛生教育などが示されています。
身体機能の変化には個人差があるため、年齢だけで判断せず、
本人の状況や業務内容を踏まえた対応が大切です。
中小企業においても、現在の健康管理や安全衛生活動を活かしながら、
職場環境の改善と健康管理の両面から取り組みを進めていきましょう。
参考資料
厚生労働省 「高年齢労働者の安全衛生対策について」
「高年齢者の労働災害防止のための指針」のほか、関係通達やリーフレット、
職場改善事例、支援事業などが掲載されています。

