「うちの会社は小さいから、メンタルヘルス対策までは必要ない。」
そう考えている経営者の方は少なくありません。
しかし現在、働く人のメンタルヘルスは企業経営に大きな影響を及ぼす課題となっています。
精神障害による労災請求件数は年々増加し、休職・退職、人材不足、生産性の低下など、
中小企業にも大きな影響を及ぼしています。
私は30年間、企業の健康管理室で産業保健師として勤務し、
多くの労働者や管理職の方々の健康相談やメンタルヘルス対策に携わってきました。
その中で、心の健康づくりは労働者だけでなく、会社全体を支える欠かせない取り組み
であることを数多く実感してきました。
この記事では、厚生労働省の
「労働者の心の健康の保持増進のための指針(メンタルヘルス指針)」を中心に、
企業の産業保健師として長年、健康相談や休職・復職支援に携わってきた経験をもとに、
「なぜ今、中小企業でもメンタルヘルス対策が必要なのか」を分かりやすく解説します。
ポイント
この記事のポイントはこちらです。
- メンタルヘルス対策は、労働者だけでなく企業経営にも大きく関わる重要な取り組み
- 対策は「一次予防・二次予防・三次予防」の3つの段階で進めることが基本
- 職場全体で取り組むために、「4つのケア」の役割分担が重要
- 中小企業では、地域産業保健センターなどの外部資源を活用しながら進める
- まずはメンタルヘルス対策の全体像を理解する
なぜ今、メンタルヘルス対策が重要なのか
精神障害による労災請求件数・認定件数は年々増加傾向にあります。
メンタルヘルス不調は、本人だけの問題ではありません。
企業にとっても、経営に影響を及ぼす重要な課題となっています。
特に中小企業では、一人の休職や離職が職場全体へ与える影響は大きく、
早めの対応が求められます。
企業への影響としては、次のようなものが挙げられます。
| 企業への影響 | 具体例 |
|---|---|
| ① 一人ひとりの生産性の低下 | 集中力や判断力の低下、ミスの増加、 プレゼンティーズム(出勤していても十分な パフォーマンスを発揮できない状態) |
| ② 周囲の社員への影響 | 業務負担の増加、残業の増加、 職場の雰囲気の悪化、 チーム全体のモチベーション低下 |
| ③ 人件費・経営コストの増加 | 長期休職、離職、採用・教育費、代替要員の確保、復職支援にかかる時間や費用 |
| ④ 労務・法的リスク | ハラスメント問題、労災認定、 安全配慮義務違反による訴訟・損害賠償など |
| ⑤ 企業イメージへの影響 | 採用力の低下、離職率の上昇、 働きやすい職場としての評価の低下 |
| ⑥ 取引先・顧客への影響 | 納期遅延、品質低下、顧客対応の遅れ、 企業への信頼低下 |
このように、メンタルヘルス対策は、労働者の健康を守るためだけでなく、
企業経営を支える基盤の一つでもあります。
私自身、企業で長年、健康相談や休職・復職支援に携わる中で、
一人の不調が職場全体に影響し、管理職や同僚、人事担当者が対応に追われる場面を
数多く見てきました。
一方で、早い段階で相談し、職場全体で支える体制が整っていたケースでは、
休職を防げたり、スムーズな職場復帰につながることもありました。
だからこそ、メンタルヘルス対策は「問題が起きてから」ではなく、
「問題が起きる前」から取り組むことが重要です。
問題が起きる前から取り組むことが大切
令和6年の厚生労働省「労働安全衛生調査(実態調査)」では、仕事や職業生活で
「強い不安、悩み、ストレスを感じている」労働者は68.3%と、約7割に上ります。
多くの労働者がストレスを抱える背景には、次のような要因があります。
| ストレスの内容 | 割合 |
|---|---|
| 仕事の量 | 43.2% |
| 仕事の失敗・責任の発生等 | 36.2% |
| 仕事の質 | 26.4% |
| 対人関係 | 25.5% |
| 顧客等からのクレーム | 24.9% |
「今まで問題が起きていないから」といって、対策が不要とは言えません。
メンタルヘルス不調は、本人が相談できずに一人で抱え込んでいたり、
不調でも周囲に気付かれないまま働き続けていたりすることもあります。
このため厚生労働省のメンタルヘルス指針では、メンタルヘルス対策は、
「病気になった人への対応」だけではなく、不調を未然に防ぎ、早期に気づき、適切に対応し、
職場復帰まで支援するという、職場全体で継続的に取り組む活動として位置づけています。
その基本となるのが、「一次予防」「二次予防」「三次予防」です。
それぞれの内容について、次にご紹介します。
メンタルヘルス対策の一次・二次・三次予防
「メンタルヘルス対策」というと、休職者への対応や復職支援を思い浮かべる方も
多いかもしれません。
メンタルヘルス対策は、「予防・早期対応・回復支援」の3つの段階で考えることが基本です。
全体の流れはこちらです。

大切なのは、不調になってから対応するのではなく、早めに気づき、必要な支援につなげることで、
不調を未然に防ぎ、安心して働き続けられる職場をつくることです。
このため、事業者には、職場環境の改善も含めた継続的なメンタルヘルス対策が求められています。
この取り組みは、「一次予防・二次予防・三次予防」の3つの段階で進めることが基本的です。
それぞれの予防について、簡単にご紹介します。
一次予防(未然防止)
メンタルヘルス不調を起こさないようにするための取り組みです。
例えば、働きやすい職場環境づくりや、労働者がストレスへの理解を深める教育、
ストレスチェック制度などが挙げられます。
中小企業では、まずこの一次予防から取り組むことが、無理なく継続しやすい第一歩になります。
二次予防(早期発見・早期対応)
不調のサインに早く気づき、重症化を防ぐための取り組みです。
メンタルヘルス不調がみられる労働者の早期発見や不調者への適切な対応、
ストレスチェック後のフォローなどが挙げられます。
三次予防(職場復帰・再発防止)
休職した労働者が安心して職場に復帰し、
再発を防ぎながら働き続けられるよう支援する取り組みです。
復職支援や職場での配慮、復帰後の継続的なフォローなどが含まれます。
このように、メンタルヘルス対策は、
一次予防から三次予防をバランスよく進めることが大切です。
メンタルヘルス対策の4つのケア
メンタルヘルス指針では、職場のメンタルヘルス対策は、一部の担当者だけが行うものではなく、
それぞれの立場で役割を担いながら、継続的・計画的に進めることが求められています。
その基本となるのが、次の「4つのケア」です。

それぞれのケアについて、簡単にご紹介します。
| 取り組み | 内容 |
|---|---|
| セルフケア | 労働者自身がストレスに気付く |
| ラインによるケア | 管理職が部下の変化に気付く |
| 事業場内産業保健スタッフ等によるケア | 産業医・保健師・衛生管理者などが支援 |
| 事業場外資源によるケア | 外部専門家や地域産業保健センター等を活用 |
メンタルヘルス対策を効果的に進めるためには、
上記4つのケアを、計画的・継続的に実践していくことが大切です。
中小企業では、「社内だけで全部やろう」と考える必要はありません。
外部専門家や地域産業保健センターなどを積極的に活用することも大切です。
まとめ
メンタルヘルス対策は、不調になった労働者への対応だけではなく、
不調を予防し、早期に気づき、必要な支援につなげるための継続的な取り組みです。
特に中小企業では、一人ひとりの存在が会社全体に与える影響が大きいため、
早い段階から取り組むことが大切です。
「何から始めればよいか分からない」と感じる企業も少なくないと思いますが、
まずはメンタルヘルス対策の全体像を理解することが第一歩です。
次の記事では、
メンタルヘルス対策の基本的な考え方とは?|中小企業が押さえておきたい進め方のポイント
について解説します。
メンタルヘルス対策を計画的に進めるための基本的な考え方について整理します。

